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個人事業主が知っておきたい法人成りのメリット・デメリット

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個人事業主として順調に事業を続けていると、「法人成り」という選択肢を検討する機会が訪れます。そのまま個人事業主として活動するより、法人になった方が多くの恩恵を得られることがあるためです。

ただし、あらゆる方にメリットがあるわけではなく、状況によってはデメリットの方が大きくなってしまうこともあります。そこで法人成りによって何がどう変わるのか、どんな場合に法人成りをすると良いのか、チェックしておきましょう。

 

法人成りで得られるメリット

法人成りで得られる主要なメリットとしては以下が挙げられます。

  • 税負担の軽減が狙える
  • 社会的信用を得やすい
  • 経費計上の範囲が広がる
  • 事業上のリスクを分離できる

これら重要なポイントについて見ていきましょう。

 

税負担の軽減が狙える

個人事業主として得る所得に対しては、所得税が課税されます。所得税は5%~45%までの累進課税制度を採用しており、所得が増すにつれて税率も段階的に上昇します。

これに対し法人税は、所得金額に応じた比例税率を採用しており、一定の所得水準を超えると法人税率の方が有利になるケースがあるのです。

 

社会的信用を得やすい

法人格を得て、事業主体の存在が登記により公示されることで、対外的な信用力が向上する傾向にあります。

特に大きな取引、リスクのある取引においては個人との契約を避けるケースも存在しますが、法人であれば新たな取引機会を比較的獲得しやすくなるでしょう。

金融機関からの融資、補助金や助成金の利用についても同様です。

「法人だから絶対的に有利」とまではいえないこと、実際は経営実態や担保の有無、実績など多様な要素によって取引や信用は決まることに注意が必要ですが、法人成りのメリットとして挙げることができます。

 

経費計上の範囲が広がる

法人は個人事業主と比べ、経費として認められる項目が広いです。

代表的なものとして、役員報酬や社宅家賃、生命保険料などが挙げられます。社宅制度を活用すれば住居費の一部を経費処理できますし、法人名義で契約した生命保険については、契約内容によって保険料の一部または全額を経費計上できるケースもあります。この仕組みを有効活用すると、保障と節税効果を両立させることもできるでしょう。

また、将来の退職に備えた積立に関しても一定の条件下で経費計上が可能となります。

ただし、どの支出においても「業務上の必要性」が必要であり、個人・法人のいずれでも損金算入の本質は変わりません。

 

事業上のリスクを分離できる

法的に、法人は経営者個人とは別の人格を持つため、事業上の債務や損失について個人財産への影響を一定程度制限することができるでしょう。

たとえば個人事業主の場合、事業の失敗により個人の全財産が責任範囲となりますが、株式会社や合同会社のように社員が有限責任しか負わない法人であれば出資額の範囲内にリスクが限定されます。

ただし、中小企業だと金融機関から経営者個人の保証を求められることもあり、経営者が法人の連帯保証人になっているときは完全にリスクが分離されるわけではありません。

 

法人成りに伴うデメリット

法人成りを行うことで、次のデメリットが生じる可能性もあります。

  • 設立・運営にかかるコストが大きい
  • 業績が悪いときの税負担が大きい
  • 社会保険料の負担の発生

業務の負担やコストの負担が大きくなってしまうこともあるため、注意してください。

 

設立・運営にかかるコストが大きい

個人事業の立ち上げ手続きは0円でも可能ですが、法人設立には登録免許税や定款作成などに費用がかかります。

株式会社の場合は少なくとも20万円程度、合同会社の場合だと6万円程度の設立費用が欠かせません。これらに加えて資本金の準備も必要です。

また、定期的に役員変更登記(株式会社の場合は長くとも10年に一度は必須)などの手続きで費用がかかりますし、設立後も継続的にコストがかかり続けます。

さらに、株主総会や取締役会の実施、議事録の作成など、状況に応じて法令で定められた手続きに対応すべき負担も生じます。

 

業績が悪いときの税負担が大きい

上述のとおり、業績が好調であれば個人事業主より法人の方が税負担が割合小さくなる傾向にあります。一方で、業績が悪くあまり利益が出ていない状況だと、かえって法人の方が税負担の割合が大きくなってしまうこともあるのです。

これは所得税と法人税で適用される税率の違いにも起因しますが、法人住民税の均等割も影響しています。

もし個人事業主で所得がゼロ・赤字となれば所得税は発生せず住民税も非課税となりますが、法人の場合は所得がゼロ・赤字でも、法人住民税のうち均等割の部分については負担が発生してしまいます。

 

社会保険料の負担の発生

法人になると厚生年金保険と健康保険への加入が義務化され、これらの保険料は会社と個人で折半となります。国民健康保険や国民年金と比較すると、会社負担分を含めた総額では負担が増加するケースもあります。

また従業員を雇用する場合は雇用保険と労災保険への加入も必要となり、給与計算や保険料納付などの労務管理業務も新たに発生します。これらの業務を適切に行うための人件費、あるいは外部委託費も考慮する必要があるでしょう。

 

法人成りの判断を見極める方法

法人成りをすべきかどうか、上記のメリット・デメリットや事業の将来性も含めて総合的に検討する必要があります。以下のポイントも踏まえ、自身の事業に最適な判断を下しましょう。

  • 年間所得が大きい場合(細かい計算を要するが、一般的には1,000万円程度に達している場合)は、個人の所得税率が法人税率を上回る可能性が高く、法人成りによる税務上のメリットが大きくなる。
  • 従業員の雇用を検討している場合、法人成りによる対外的な信用力の向上や社会保険の充実により人材確保をしやすくなる。ただし社会保険に関する業務負担の増大も考慮する必要がある。
  • 組織的に事業を拡大していきたい、大手企業との大型取引を獲得したい、大規模な資金調達を成功させたいなど、ビジネスチャンスを逃さず成長していく場合は法人成りを前向きに検討。
  • 将来的な事業承継を考えている場合、株式を譲渡することによる承継の方が相続による承継よりもスムーズで、税務上有利になるケースもある。

法人成りの検討にあたっては、専門家に相談することで判断の精度をより高めることができます。税理士など、税務やビジネスに対する知見を有する専門家も利用しながら今後の方針を考えていきましょう。