福田公認会計士事務所 > 記事コンテンツ > 新規開業・スタートアップ支援資金で資金調達をするメリットとデメリット
新たに事業を始めるなら資金ショートに気を付け、資金調達を進める必要があります。また、素早く事業を軌道に乗せるためにも資金調達は欠かせません。
資金調達の方法も多種多様ですが、創業融資を検討しているなら日本公庫(日本政策金融公庫)の利用も検討すると良いでしょう。開業間もない事業者におすすめの融資制度が用意されています。当記事ではそのうちの1つ、「新規開業・スタートアップ支援資金」について解説します。
新規開業・スタートアップ支援資金とは、日本公庫が提供する、創業者やスタートアップを対象とした融資制度です。
※2024年3月まで日本公庫では「新創業融資制度」が運用されてきたが、これに代わる制度として同年4月から運用が始まった。新創業融資制度とおおむね内容は共通しているが、より柔軟に利用しやすい形へと移行した。
資金調達が困難な創業期の事業者に対し資金を提供し、地域経済の活性化につなげることが目的とされています。
新規開業・スタートアップ支援資金の利用条件等 | |
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利用対象者 | ・新しく事業を始める方 ・事業立ち上げからおおむね7年以内の方 |
資金使途 | 新規事業やその立ち上げ後に必要となる設備資金と運転資金 |
融資限度額 | 7,200万円、うち運転資金は4,800万円 |
返済期間 | ・設備資金は20年以内(据置期間は5年以内) ・運転資金は10年以内(据置期間は5年以内) |
利率 | ・基準利率 ・条件により特別利率の適用もあり こちらから確認可能 |
担保・保証人 | 原則として不要 |
自己資金要件 | なし |
日本公庫の新規開業・スタートアップ支援資金制度を利用することには、次のようなメリットがあります。
ほかの資金調達方法と比べた違いにも着目しながら、それぞれの詳細を紹介していきます。
同制度の大きなメリットとして、「原則担保や保証人が不要でありながら、最大7,200万円もの融資が可能」な点を挙げられます。
民間の金融機関から受ける一般的な融資では創業間もない企業に対して担保や保証人を求めることが多く、無担保・無保証での融資だと金額は大幅に制限される傾向にあります。
また、エンジェル投資やVC(ベンチャーキャピタル)といった出資による資金調達と比較すると、株式を譲渡する必要がありませんので経営権を維持したまま資金調達できるという利点も挙げられます。投資家が株主になることで意思決定の自由度が制限される場合もありますが、日本公庫からの融資を受けても議決権を取られる心配はありません。
融資を成功させるには、一定の要件を満たし審査を通過しなければなりません。実績が十分な企業であれば審査も通過しやすいですが、創業期だとまだ実績がないためなかなか融資を成功させることが難しいという実情があります。
しかし同制度は創業期の方向けの融資制度ですので、開業すぐであっても比較的融資を成功させやすいといえるでしょう。
また、資金調達の確実性という意味では、クラウドファンディングや補助金より利用しやすいともいえます。クラウドファンディングでは目標額に達しない可能性があり、資金調達の確実性に欠ける側面があります。補助金に関しては競争が激しく、要件を満たしても採択される保証はありません。
同制度では、設備資金で最長20年、運転資金で最長10年という長期返済にも対応しており、さらに最大で5年間の据置期間も設定することができます。これは日本公庫の一般貸付(設備資金10年以内、運転資金5~7年程度)と比べても優遇されており、創業期の厳しい資金繰りに配慮した制度設計となっています。
エンジェル投資やVCからの出資と比べれば返済義務がある点でデメリットはありますが、据置期間の設定により事業が軌道に乗るまでの返済負担は軽減可能です。
同制度では、創業者に対して基準利率から0.65%もの金利引下げが適用されます。さらに、創業者が「女性」「35歳未満」「55歳以上」「Uターンにより地方で事業を立ち上げる」「新規性のある技術やノウハウを持つ」など、一定の条件を満たせばさらに有利な条件で借入を行うことができます。
このようにして資金調達コストが抑制されますので、民間金融機関からの融資より借入の負担が小さくなることも期待できます。
新規開業・スタートアップ支援資金制度とほかの資金調達方法を比べたときのデメリットについても確認しておきましょう。
同制度の申請の際、今後始める事業に関する計画を策定しないといけません。実績の乏しい創業期でも利用しやすい反面、事業計画書から今後の成長性や返済可能性が読み取れなければ審査には通らないでしょう。
新しく事業を始める方や事業立ち上げからおおむね7年以内の方が利用できるとはありますが、日本公庫のHPで“「新たに営もうとする事業について、適正な事業計画を策定しており、当該計画を遂行する能力が十分あると認められる方」に限ります。”と明記されています。
引用:https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/01_sinkikaigyou_m.html
この事業計画書の作成に相当の時間や労力を要します。事業の実現性や収益性を客観的に示す必要があり、特にビジネスモデルが複雑な場合や前例のない事業の場合だとより時間がかかってしまうでしょう。
また、上記の上限額まで常に借りられるわけではありません。審査結果次第では、希望の額で融資をしてくれない可能性もあります。
同制度も融資の一種であるため、元本と利息の返済義務が発生します。民間の金融機関から借入をした場合も同様の負担が生じますが、一方で補助金や助成金を利用する場合、出資を受ける場合にはその負担がなく、融資であるからこそのデメリットといえるでしょう。
据置期間を設けることで早期に資金ショートを起こす危険性は下げられますが、それでも返済が始まると事業の資金繰りに大きな影響を与えることとなり、事業が軌道に乗り始めていないと返済が経営に深刻な影響を与えることになります。
そのため日本公庫の新規開業・スタートアップ支援資金を利用する場合でも慎重な判断を要します。専門家からもアドバイスを受けながら、最適な資金調達方法を考えていきましょう。